散文と中文

神戸市外大中国学科卒業。復旦大学国際交流学院留学。中国語と中国と共に生きる自称エッセイスト。

日記:散髪にまつわるエトセトラ

実家は二世帯住宅で、隣に祖母が住んでいる。

美容師の祖母の話

祖母は現役の美容師で、高校を卒業するまでは基本的に祖母に髪を切ってもらっていた。

美容師とは言ってもそこは地元のおばあちゃんを相手にしているような小さな美容室で、なんとかというキラキラした雑誌の代わりに『女性自身』が積み上がっているし、髪を染める途中に出てくるのはホットレモンティーじゃなくて黒飴である。趣味の庭いじりをしているときにふらっとお客さんが来ると、手を止めて髪を切る、そんな美容室だった。

小さい頃からずっとおしゃれというものに対して全く敏感ではなく、髪を切るときも「そろそろ伸びて暑いから切ろう」としか思っていなかったため、適当な土日に二世帯の家をつなぐインターホンのようなもので祖母を呼び出して「今髪切りに行っていいー?」というふうな予約システムだった(もしくは、直接行って大きな窓ガラスから中を見て、お客さんがいたら家に戻ってくるのどちらか)。

髪を切るときは祖母に対して「短くして」「前髪切って」としか言わなかったため、"段カット"という概念や、"(髪を)梳く"という概念を知ったのはおそらく大学生になってからだったように思う。しかも、前髪は伸びたら目に入るまで伸びる前に切るものだと信じていたので、前髪があるとかないだとか、前髪を作るだとかそういう概念が全くなかった。

確か高校の時に、比較的ゆるい校風だったのもあってパーマをかける人もある程度いて、パーマに憧れた時期があった。「めんどくさいからやってくれないと思うよ」という母の言葉を退けて、パーマをお願いした。

・・・何かどうダメだったのがわからないけど、全くダメだったのを覚えている。

「そう。夏にパーマをかけたのよ。ところがぞっとするようなひどい代物でね、これが。一度は真剣に死のうと思ったくらいよ。本当にひどかったのよ。ワカメが頭にからみついた水死体みたいに見えるの。でも死ぬくらいならと思ってやけっぱちで坊主頭にしちゃったの。涼しいことは涼しいわよ、これ」と彼女は言って、長さ4cmか5cmの髪を手のひらでさらさらと撫でた。そして僕に向かってにっこりと微笑んだ。

村上春樹ノルウェイの森 上』

これだ。まさにこんな感じの失敗。多分高校の時に読んだこの描写がなんだか忘れられなくて、私も坊主頭でにっこりと微笑んでみたかったので、やけっぱちで坊主頭にしたことがある話は高校よりもう少しあとの話。 

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)
 

なんやかんや言いながら、家族はみんなタダで切ってもらっていたし、高校のときからは髪を切るたびに毎回笑って「これじゃ赤字だね」と言いながら3000円くらいお小遣いをくれていた。

大学に受かったと知ったとき、初めて髪を染めるために札幌の美容室に行った。美容室というものに初めて入って、とてもソワソワしたし、勝手が全然わからなかった。「今までおばあちゃんに切ってもらっていたから、どうしたらいいかまったくわからないんです。おばあちゃんは田舎の美容師だからめっちゃださいんです」というようなことを言うと、担当の人が「でも、孫の髪を切るなんておばあちゃん今までずっと幸せだったと思うよ。俺でも絶対嬉しいもん」と言ってくれたのを覚えている。

大学に入ってから帰省するたび、しばらくは「神戸は髪切るのにいくらかかるのさ?結構かかるべさ」と言われていたけど、今ではそんなことも聞かれず、「彼氏とはうまくいってるの」なんてことばかり聞いてくる。

 成人式のときは髪のセットもしてくれたおばあちゃん。トリトンのお寿司が大好きで、帰省のたびに連れて行ってくれたこともあった。今年の夏、無事に帰って会えるといいなと思う。

私がベリーショートくずれの坊主だったときの話

人生で二回ほどベリーショートにしたことがある。

一回目は、所属していた卓球部の最後の一年だった中学三年生のとき、隣の中学校のめちゃめちゃ強いエースの女の子がベリーショートにしているのに憧れてばつんと切ったとき。

二回目は、大学三年生が終わって留学に行く前に、中国で髪を切るのが怖くてばつんと切ったとき。その後結局、上海の大学近くのウォルマートレジ前にあった15元カットの床屋で「ほんまにいいんか?!」って毎回言われながら短くしていた。髪型なんて概念はもはや存在しない、ただのモンチッチである。すっかり顔馴染みになってしまい、留学から帰ってくる時に挨拶に行った。貴州かどっかから出稼ぎにきていたらしい彼は元気かな。

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ロングに憧れるけど結局切ってしまう

伸ばし始めて半年くらい経つけど、基本的に雑なので長い髪が向いていないんだと思う。久しぶりに肩に届く長さになったが、伸ばしているメリットを全く感じないので、そろそろ切ろうかなと思案中です。

生まれ変わったら絶世のさらさら黒髪ロング美女になりたい。

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いつかの北海道医療大学駅