散文と中文

神戸市外大中国学科卒業。復旦大学国際交流学院留学。中国語と中国と共に生きる自称エッセイスト。

日記:辻仁成のブログが最近の癒し

最近、Google Chrome のホームページに辻仁成のブログを設定してから、Chrome を立ち上げるたびに癒されている。「滞仏日記」と「退屈日記」が混在しているのもいいし、JINSEI STORIESという名前もいい。

 

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某月某日、ぼくは、男友だちが少ないのだけど、実は友って言い合うやつが少ないだけで、一目置いてたり、すげぇな、と気になってる奴とか、滅多に会わないけどたまに会いたくなる奴とかはそれなりにいる。ぼくの仲間はみんな、他人の人生に干渉しないので、付き合いやすい。

引用:退屈日記「友だちってなんだろう。滅多に会わないけど、応援したくなる仲間について」 | Design Stories

友だちの定義は人によって違うし、前中国人の知り合いの人に「大学時代の親友にだいたい月に一回くらい会ってご飯を食べる」って言ったらありえない、その頻度で親友って言えるの?と言われたことがあります。その人は週一くらいだと思っていたらしい。

週一でご飯食べるのなんて彼氏くらいしかいないし、週一で同じ人と会ってたらしゃべることなくなるんじゃないかと思ったりしてしまう超絶ドライな人間で、共感。

 

「家族って、日々に意味を教えてくれる存在なんだと思う。ぼくはアンナの家族からたくさんのことを教わった。一人一人の役割とかがちゃんとあって、羨ましかった。お父さん、お母さん、娘たち、従兄がいて、その友達たち・・・。パパと二人で生きることが出来てよかったけど、ずっと二人っきりというわけにはいかない。・・・(中略)」
「・・・(中略)ってか、パパはもう期待してない。期待し過ぎるから、人間は苦しくなんだよ」
「それ、パパの口癖だけど、間違いだ。アンナの家族はみんな期待しあってた」・・・(中略)
「パパはきっと期待をしなかったんだよ。期待を裏切られるのが嫌で…。でも、期待をすることの方が大事だ。たとえ裏切られても、期待し合える関係ってぼくは素敵だと思う」
息子に説教をされてしまう。途中からフランス語になっていた。
「田舎の暮らしって、期待しかないんだ。人数が少ないから逃げ場がない。だから、開かれた期待をする。ぼくは期待されたから、掃除をしたり、朝ごはんを準備したり、片付けたりしたけど、それは悪くなかったし、嫌じゃなかった。むしろ、みんなに期待されたことで、自分の存在理由が、役割が、意味がわかった。・・・(中略)パパ、他人に期待してもいいんだよ。期待しないだなんて、思うからうまくいかなくなるんだ。知ってるよ、パパがいつも最後は人を許していることを…。でも、そろそろ、パパも誰かに期待をして生きてもいいんじゃないの?」

引用:滞仏日記「パリへの帰り道、思わず、息子に説教されてしまう」 | Design Stories

 

”田舎の暮らしって、期待しかないんだ。人数が少ないから逃げ場がない”。生まれ育った北海道の田舎町のことを思い出しました。好きだけど、それとは別に、息が詰まる生きづらい場所でした。

 

某月某日、いくつになっても、人間はいろいろな角度で何かいちゃもんをつけられるのだ。どんなに清く生きようとしていても、どこの誰だかわからない人に「え、そこですか」と思うような角度で、つっこまれ、とやかくいわれてしまうのが人間である。

みんな笑顔で摩擦もなく、お互いを尊重し合って仲良く生きていければいいのだが、それが本当に難しいし、そうは問屋が卸さないのが、我々が生きるこの世界というものだ。一生懸命やっていても、非難される世の中だから、これはもう気にしないで大丈夫だよ、とぼくはぼくに言い聞かせている。

涼しく生きている人がいるなぁ、と思ってちょっと観察をしてみたのだけど、そういう人というのはよく見ていると、世界をスルーしている。何かバリアのようなものをまとっているというのか、笑顔で躱しているというのか、もっと言えば、世界の痛みとか見てない。憎悪とか嫌悪とかそういうものを見ないようにして生きている。

本質を問うと、上手にはぐらかされてしまう。現実を抱える気なんかさらさらないというのか、そうしないことがその人の生きる方法なのであろう、だから涼しい顔でいられるのに違いない。

不条理な世界だから解決策は簡単に見つけ出せないが、人間が人間であるいいところだけを失わないでいたいものだ。ぼくらは聖人君子にはなれない。一人の弱い人間でしかない。そこはだから無理をする必要はないので、全部を受け止めて生きる必要もない。自分が壊れたら、あなたの家族や周りはどうするのか。自分に出来ることを出来る範囲でやることで、少しずつ世界と関わっていけばいいし、それが今ぼくに出来ること、あなたに出来ることなのだ。

・・・(中略)スーパーマンになれないぼくらは自分の居場所で頑張るしかない。しかし、みんなが自分の居場所で頑張れば、或いはそこで、誰かのためになりたい、とささやかなながら思うのであれば、その共時的な意識が、見えない人類のスーパーマンを生み出し、その見えざるスーパーマンによって人類は救われるのだと思う。思わなければ現れないこの幻のスーパーマンをぼくらは良心と呼ぶことも出来る。

引用:滞仏日記「自分の居場所で頑張ることが誰かを助けている」 | Design Stories

 

これだ…。世の中は自分が思っていたより何百倍も不条理で、世の中の半分はヤバイ人だという持論があるのですが、 涼しい顔をして生きていくしかないんだな。たぶん、それが「期待をしないで生きていく」と言うことだと思うのだけど。

尊重して尊重される世界になればいいのにな、と毎日思いながら、今日も誰がが誰かを尊重しなかったり、尊重したりしています。

 

海外が舞台、とりわけ自分が行ったことのある場所が舞台の小説を読むとすごく楽しくて、辻仁成のブログも『サヨナライツカ』も、読んでいて早くどこか非日常に身を置きたくなる気持ちにさせられます。

『サヨナライツカ』は定期的に読みたくなって何回も読んでいる小説ですが、読むたびに切なくなって泣いてしまう。

いつも人はサヨナラを用意して生きなければならない

孤独はもっとも裏切ることのない友人の一人だと思うほうがよい

愛に怯える前に、傘を買っておく必要がある

どんなに愛されても幸福を信じてはならない

どんなに愛しても決して愛しすぎてはならない

愛なんか季節のようなもの

ただ巡って人生を彩り あきさせないだけのもの

愛なんて口にした瞬間、消えてしまう氷のカケラ

サヨナライツカ

永遠の幸福なんてないように

永遠の不幸もない

いつかサヨナラがやってきて

いつかコンニチワがやってくる

人間は死ぬとき

愛されたことを思い出すヒトと

愛したことを思い出すヒトとにわかれる

私はきっと愛したことを思い出す

ー『サヨナライツカ』原文より

サヨナライツカ (幻冬舎文庫)

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  • 作者:辻 仁成
  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 文庫

そうしてこのサイトをよくよく見ていたら、母校の大先輩の記事が掲載されていることに今更気がつきました…。かっこよすぎます。

西村英希 コロナ下の香港で見る外食産業とコミュニケーション | Design Stories